マリャーマ・ルシオーニ (Maryama Luccioni)の人生は、北へ北へと導かれてきた。子供時代はコルシカ島で地中海の陽光を浴びながら育ち、10代から20代前半は賑やかなパリへ。ここ6年はベルリンで暮らしている。ヨーロッパを移動しながら、両親のルーツであるアフリカも忘れたことはない。ベルリンで毎月開催されているパーティー「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー (African Acid Is the Future)」の共同主宰者を務め、3人いるレジデントDJの1人として「マリーゾンアシッド(Maryisonacid)」のDJネームで活動中。 パートナーはウルフオンアシッド(Wolfonacid)とダウド(Dauwd)、さらには世界中から招いたゲストたちだ。ポストパンク、ハウス、ジャズなど幅広いジャンルのレコードをミックスしながら、深淵なアフリカの鼓動を表現している。いわく「アフリカはあらゆるビートの母であり、ビートは時間の流れそのもの」なのだ。
世界中でレコードを探し続けてきたマリャーマ・ルシオーニにとって、レコード収集は本能のようなライフワーク。先祖から受け継いだ伝統や生き方に加え、あらゆるものを分かち合おうとする共生の心が音楽の世界で輝きを放つ。進化を続ける「アフリカン・アシッド」の現在、冒険的な選曲家としての野望、レジデントDJの役割などについて語っていただいた。

Photograph by Camille Bokhobza

アナログという言葉から連想するのはどんなこと?

アナログと聞いて、まず思い浮かぶのは温かい手触り。そして本物ならではの存在感です。
たとえば私たちのパーティーを撮影している写真家は、アナログカメラにこだわっています。いつも目立たないように行動し、パーティーを邪魔したり演出したりせずに本質を捉えてくれます。彼の写真シリーズはとびきり上質な世界観を表現していますが、その原因はきっとアナログで撮影しているからだと思っています。

子供時代を過ごしたコルシカ島のレコード収集環境は?

レコード収集みたいな世界があることさえ知りませんでした。子供の頃は、コンセルヴァトワール(音楽・舞踊・演劇・工芸の教育機関)でバレエのレッスンに打ち込んでいたので、収集癖に目覚めたのはずっと後のことです。私が知る限り、故郷の町に本物のアナログ盤を取り扱うレコード店はありませんでした。でもティーンエージャーになって、いろんなヴィンテージものに興味を持ち始めます。最初は本や衣服などに惹かれ、やがてレコードも対象になりました。15〜16歳の時にフリーマーケットで掘り出し物を収集し始め、今でもまだコレクションを続けています。

Photograph by Camille Bokhobza

小さなパンクバーで始まったパーティー「アフリカン・アシッド」が、クロイツベルク地区のフェストサールで開催される月例イベントにまで成長したいきさつは?

プロジェクトが成長しているのは幸運のおかげ。いつもそう考えてきたので、大きな変更をするときは慎重でした。ロフタスホールに会場を変えたときには、会場の暑さや部屋の小ささが問題になりました。すぐ満員になってしまうので、入場できない人から不満の声が上がったのも憶えています。でもパーティーはまだ黎明期であり、ここが分相応の場所なのだと自分に言い聞かせました。そして最終的には、何事にも潮時があるという法則を学んだのです。会場の変更はいつか必要になるけど、わずか数か月で引っ越すのは時期尚早。すぐに浮上した問題を前に、慌てて方針を変更することも避けました。会場がどこであっても、パーティー誕生時のエッセンスを維持したいと考えていたからです。
「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」は、小さなヘルツバーから自然発生的に始まったパーティーです。それでも目指す目標やメンバーの人選については明確なビジョンがありました。初めてレジデンスDJとしてパーティーを開催させてくれた愛すべきロフタスホール、そしてやりがいのある現在のフェストサールに至るまで、会場の魅力を最大限に活用しようという基本的な方針は変わりません。誕生時から、大切な原則には何ひとつ変更を加えていないのです。ゲストDJたちが醸し出す雰囲気も維持しながら、パーティーの規模を発展させてきました。
たとえばパーティーで演奏する生バンドが、前半だけでなくパーティー全体を支える構成にすることにもこだわっています。バンドはパーティーの方向性を体現しているので、最後まで演奏してもらうことも大事な目標のひとつ。現在のフェストサールもありきたりなクラブとは一線を画しているので、絶えず想像力を働かせて刺激的な展開にできるよう知恵を絞っています。試行錯誤を重ねながら、今ではすっかり定番の流れも確立しました。パートナーのロマン・アザロが、ラムダ・ラボ(Lambda Labs)とコラボしながら素晴らしい室内音響を実現してくれます。パーティーは絶えず流動的に変化していますね。

ベルリンや他の都市で、レコードを探すお気に入りの場所は?

ベルリンなら「OYEレコード」や「ハードワックス」。ザ・ストアX内にある小さな「フォニカ・レコード」のアンテナショップもいいですね。有名店が中心ですが、偶然見つけた小さなレコード店も一通りチェックします。でも正直に言えば、目的のレコードは実店舗よりもインターネットで見つけることが多くなってきました。
指でパラパラとレコードをはじきながらジャケットを眺めたり、未知のレコードとの出会いを楽しんだり、各店特有のくつろいだムードや緊張感を感じたりするのが大好き。だからすべてがネット優勢になるのはちょっと残念ですね。 パリではいつしか「スーパーフライ」に足が向いてレコードを探しています。旅行先では地元の人に尋ねてレコード探しに出かけるようにしていますよ。

Photograph by Camille Bokhobza

月ごとのDJによって大きく印象が変わる「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」ですが、レジデントDJとしての役割は?

レジデントDJの役割は、点と点をつなぐこと。パーティーとゲストの方向性を結びつけ、ひとつに調和させるのが大切です。「アフリカン・アシッド」ならではのユニークなサウンドも明確に定義してきました。パーティーの黎明期からフォローしているみなさんは、私たちのシグネチャーサウンドに共鳴してくれます。会場ではそんなつながりを感じながらゲストと絶妙なバランスを取り、DJブースから消えて再登場するタイミングを間違えないように気をつけています。

Photograph by Camille Bokhobza

これまで真にオープンマインドな観客を育ててきた「アフリカン・アシッド」ですが、即座に大きな反応が得られない難解なレコードでも自分を信じてプレイし続けますか?

「アフリカン・アシッド」の観客には、即座に理解できないものでも受け入れる度量があります。そんな観客の反応には、いつも驚かされていますよ。だから正直に言えば、観客の反応はさほど気にしていません。反応を気にしすぎると、大切な自分のグルーブを見失ってしまうからです。特定のレコードを押し付けるようなことはしませんが、実際に受け入れてもらうのが難しいレコードもあります。でもそのレコードが、最終的に受け入れられて観客を満足させる可能性も否定できませんから。

これから時代が移り変わっても、刺激的なパーティーを主宰し続けるための秘策は?

パーティーは流動的なムーブメントだと考えています。自分が暮らす街でも、その外部に広がっている世界でも、ひとつの時代を創っている喜びや期待を感じさせてくれる幸運な存在でした。そう考えると、やはり最も重要なのはプログラム構成です。たとえば先駆的な音楽的実験を追求しているアーティストをゲストに招待すること。これまでに確立した音楽を土台にしながら、ライブパフォーマンスでのサプライズを取り入れることで、また新しい未来が切り拓けるでしょう。会場をフェストサールに変更したのは昨年9月なので、まだしばらく新鮮さな印象を持続できると思います。これまでのパーティーとも深い調和を感じさせてくれるので、理想的な会場ですね。
素敵な中庭もある会場なので、春になるのが待ちきれません。あとは夏休みのバケーション。海に飛び込んで、しっかりと休息をとりたい。お知らせしたくてたまらない秘密の計画もあるので、発表を楽しみにしていてください。

Photograph by Camille Bokhobza

木々とフルーツに囲まれた環境とレギュラーDJのプレイは定番ですが、毎月のゲストによってスタイルが変化する「アフリカン・アシッド」。常に新しい体験を生み出すため、運営に難しさを感じますか?

難しいのは、音楽よりも物理的な運営面ですね。ゲストたちのスケジュールを抑えて、バランスがとれたパーティーを計画し、最大限のエネルギーを投じながら理想的なシナリオを比較検討します。チームメンバーのダウドは、いつも最高のタイミングで提案を持ち込んでくれる人。計画通りに物事が進まないことも多い世界なので、臨機応変な対応も必要になります。でもうまくいったときに、これほど大きな満足感を得られる仕事もありません。これまでの私たちは、かなり幸運に恵まれてきました。昨年のアマドゥ&マリアムのプライベートショーも大成功だったし、「今月はコズミック、トライバル、サイケデリック、エレクトロニックな路線で行こう」などと相談することもありますよ。パーティーは、いつも多彩な要素を組み合わせる折衷主義。主体となる小テーマも毎回さまざまに変化させているんです。

文:ジョン・ソープ

マリャーマ・ルシオーニ(Maryama Luccioni)

カルト的人気を誇るベルリンのナイトパーティー「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」の主宰者。マリャーマ・ルシオーニは、同パーティーの選曲を「アフロからテクノに至る多彩なバリエーション」と定義している。その理由も明快だ。「なぜなら、アフリカはあらゆるビートの母であり、ビートは時間の流れそのもの。テンポに合わせて心の鼓動を刻み、心地よいグルーブでステップを刻みましょう。ナイジェリア、エチオピア、コンゴのアフロリズムでトリップしながら、エレクトロニックサウンド、コズミック、サイケデリックなバイブレーションも楽しんでください」
マリャーマ・ルシオーニが主宰する「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」のFacebookグループはこちらから。

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