「ファンク」がもし世界共通語のひとつなら、クルアンビン (Khruangbin)はそのトップクラスの翻訳者たちと言えるだろう。テキサス州出身のこのトリオは、過去10年のうちの大部分を、世界中の多様な音を求めて共に旅し、見つけた点と点とを繋ぎ、彼らならではのヴィジョンへと昇華させてきた。
Mark Speer(ギター)と Donald “DJ” Johnson(ドラム)の二人は、地元ヒューストンの Rudy Rasmus 神父率いるメソジスト派 St. John’s 教会のゴスペルバンドのメンバー同士として出会う。Speer が友人を通して Laura Lee(ベース)と出会うやいなや3人は頻繁に深夜まで共に時間を過ごすようになり、現在のバンドの結成へと向かっていった。クルアンビンはタイ語で「Engine Fly = エンジン飛行」(一般的には「飛行機」の意味)。その名前が示唆する通り結成当初に主に影響を受けていたサウンドはタイファンクやサイケデリックロックで、2015年リリースのデビューアルバム「The Universe Smiles Upon You」のインスピレーション源となっている。またそのバンド名は同時にクルアンビンサウンドを形どっている「冒険心」や「旅の風景」へのオマージュでもあり、彼らが作る世界観を象徴する言葉でもある。2018年にリリースされたセカンドアルバム「Con Todo El Mundo」で今度はスペインやイランの音楽からインスピレーションを汲んでいる。彼らの音楽は常にライブ演奏されるがために紡がれており、世界各地へ実際に「飛行」し、たゆまずライブを実践し続けている。
世界各地から受けた数々の影響や、牧場の納屋でレコーディングすることの利点などについてメンバーの Laura と Mark に話を伺った。

写真:Kris Humphreys(Here & Now:www.wearehereandnow.net

あなたにとっての「アナログ」とは何ですか?広い意味でも、具体的にでも、教えてください。

Mark Speer : 僕にとってアナログとは「作品に面白いテクスチャーや変動的なものを吹き込むチャンスを機械がもっている」ってことだと思う。デジタル環境だと有り得ないものを。デジタルはクリーンだからね。

友情から生まれたバンドとして、どんな音楽を通して絆を深めましたか?

Laura Lee : バンドとなる前から、私たち3人はいつも火曜日にヒューストンの Rudyard’s Pub に集まってた。そこで流れる音楽がすごくよかったの。Marvin Gaye や 90年代のヒップホップ、Arthur Verocai とか。バーテンが好きなものがなんでもかかってた。そういう音楽がいつも3人の長くて超マニアックな会話を弾ませてくれていたし、今もそういう会話はよくするわ。

結成して間もない頃は、タイファンクに大きく影響を受けていましたね。タイファンクのユニークさは何なのですか?

Mark Speer : ファンクに影響を受けた音楽は世界のどこへ行ってもそうなんだけど、アメリカ発祥のファンクとかブギー、ディスコのサウンドを、タイ特有のセンス・テイスト・リズムや言語というフィルターを通してアウトプットしてるのさ。

Laura Lee : 私にとっては、タイ語のトーンが特に面白いの。それこそが「欧米の音楽じゃ生まれないサウンド」のもとなんじゃないかと。それと、ルーク・トゥン(タイの歌謡曲)の曲にいつも出てくるあの小さな鈴のような音。あの音、大好きなの。本当に独特の音楽に仕立ててるわ。

Mark Speer : あと、竹でできた口で吹くオルガンとかね。ああいう楽器って何か持ってるんだよね。欧米のエレキギターと合わせると何かすごくスペシャルなものが生まれるんだ。

クルアンビンが受けた影響の幅はとても幅広いですが、レコード収集とか音楽の共有はどれぐらい重要ですか?

Laura Lee : めちゃくちゃ重要よ。ツアーの時はほぼ2日に一回ぐらいの頻度でディグしに行くの。あらゆる時代や地域からのレコードはやっぱり今まで、そしてこれからも私たちにとって一番の先生よ。見つけた音楽の共有は、いまちょうどやり方を模索していってる最中。いろんな人に「その曲のインスピレーション源は?」とか「タイファンクや他のファンクってどこから探ればいい?」って聞かれるから、ライブ以外にDJも最近やるようになって、NTS radio でレギュラー番組もやっているわ。私たちは参考にした音源をあえて隠すような人たちじゃないし、むしろその逆で、面白い音楽を可能な限り世の中に発信していきたい。それでレコードディギングの意欲も高まるしね。

写真:Kris Humphreys(Here & Now:www.wearehereandnow.net

今バンドとしてよく聴いているものは?

Mark Speer : 最近はみんな45回転(7インチ)にかなりハマってるよ。楽屋にいつも Vestax のポータブル・プレーヤーを持ちこんでて、毎晩いろんなレコードを聴いて盛り上がってるよ。

Laura Lee : 最近は70年代初期のファンクから、Larry Levan のエディットや80年代の Whitney Houston あたりかな。ライブ後にゆっくりするのにぴったりよ。

レコード屋に行く機会は結構あるんですか?お気に入りの店とかありますか?

Laura Lee : レコードショッピングはツアーに出ることの醍醐味の一つよ。立ち寄ったどこの街でもお宝が待っている。好きな店といえば、バンコクにある ZudRangMa、トロントの Invisible City Records、イスタンブールの Deform Music。ツアーバスは狭いから最近は7インチだけ買うことにしてて、その制限がいい意味でのチャレンジになってる。LPレコードと違って、ジャンルとかでしっかり整理されてないお店がほとんどで、ディグするのにかなりの辛抱強さがいるの。でもその分いいもの見つけた時の喜びが大きいのよ。

写真:Kris Humphreys(Here & Now:www.wearehereandnow.net

最近のインタビューでは牧場の納屋でレコーディングしていると仰ってましたが、一体どんな環境なのか教えていただけますか?

Laura Lee : 納屋、そうね… 言わば究極のアナログよね。「納屋を改装したスタジオ」とかそんな洒落た感じの場所じゃなくって波板のトタン屋根の、文字通りほんとにただの納屋よ。周りの自然環境から切り離されてなくて、たいがいいつも何匹かの小動物が地面に巣穴を掘ってたり、前回なんかはスズメバチが隅に巣を作ってたわ。エンジニアのスティーブはポータブルの録音機材を持ってて、彼が1日かけてセッティングしてる間、私たちはそこにいる動物や虫たちに「ちょっとだけよそへ行ってくれない?」って説得してみたりしてる。それとマイクを少なくとも一本、牛と花しかいない草原の真ん中にポツンと置くの。
求めてる音に合わせて納屋の壁面を開け閉めできたりもする。そして天気によっては雨の音とか、納屋がきしむ音も録音に入っちゃったりね。それでもやっぱり全員同時にワンテイクで録音するの。だから、飾り付けずに、自然に出たものがそのまま作品になる。

それほど辺鄙な空間で音楽を作るメリットは何ですか?

Laura Lee : まずは、当然 WiFi だとかの気の散る要素がないこと。でも逆に、説明しづらいけどその場所から感じ取れるフィーリングがある。アイデアそのものが呼吸し、膨らむことのできる空間があるって感じ。それから、見たことないくらい広い空も。そこにはその他の世界からは切り離された小宇宙があって、そこだけのペース・時間の流れがある。他のどの場所でもなく、あの場所だからこそ自分たちのサウンドを生み出せていると思うわ。

機材にはこだわってますか?どんな録音機材を主に使っていますか?

Laura Lee : かなりシンプルにやってるわ。でもそのぶん自分の機材にはすごく愛着を持ってる。使ってるベースは本当に気に入ってるし、買ったときから一度も張り替えてない弦も愛おしい。もう8年目よ。ずっと切れませんように!あとは Fender Bassman 10アンプと、最近手に入れた Acme Motown WB-3 D.I.ボックス。これは初期のモータウンで使われていたD.I.ボックスを再現したものなの。

Mark Speer : 僕は自分のギターとポータブル・レコーダーかな。ローランドのデジタルレコーダーを持ってて、常に持ち歩いてる。それで録音した環境音は僕らのどのアルバムにも入ってるよ。

写真:Kris Humphreys(Here & Now:www.wearehereandnow.net

2枚目のアルバムは革命前のイランを含めて、中東全域からの影響が強いですが、それについて少し聞かせてください。

Mark Speer : 確か初めて聴いたのは Googoosh の曲で、すごく気に入って、そこから冒険が始まったって感じ。気付いたら夜中に一睡もせず YouTube や Discogs で誰がどんな曲をつくって、どんなレコードで何を演奏して、他にどういうものをやって、またなぜ1979年を境目に全てがぴったり終わったような感じなのかとか、調べまくってたね。

Laura Lee : イランの音楽は本当にロマンチックで、同時にとても痛々しいの。ヘビーでエモーショナルで、でもその痛みが美しく見える感じというか。そんな構図にすごく感動するわ。

楽器の編成や演奏・制作面で言うと、当時のイランではその他の地域とは全く異なるどんなことが起きていたんですか?

Mark Speer : イランのファンク・サウンドは欧米のファンクやソウル・ミュージックに似てるよ。少なくとも制作面に関してはね。それがあるから耳に馴染みやすい。ファンキーなドラムとか、フェーズのかかったワウギターとか。でもそこにイラン特有のペルシャ音階や音の装飾が重ねられていて、結果ものすごいものが出来上がるわけさ。

クルアンビンの曲はどうやって生まれるのですか?作曲の流れを教えてください。

Laura Lee : クルアンビンの曲作りはドラムループから始まる。(ドラマーの)DJがレコーディングしたものと Mark が私の好きな曲から抜き取ったドラムループが大量に入ったフォルダーがあって、その中からランダムに一つ選んで Ableton でループさせて、その上からベースの演奏をのせていく。その録音を Mark に送ると、彼が気に入ったベースラインを切り抜いたり並べ替えて、その上からギターをのせる。そうやってできたものをおおまかな下書きとして「納屋」へ持ち込んで、そこでみんなで演奏するとどうなるかやってみて、それをレコーディングする。アルバムに収録されている音源はほとんどの場合、みんなで通して演奏するのがほんの2、3回目くらいのものなの。

アルバムを聴いても、その瞬間に音が生まれていっている(アドリブのような)感覚になります。やっぱりそういう部分もあるのですか?

Laura Lee : 私たちにとって、音源はまさに「その瞬間に音が生まれていっている」ものの録音であるべき。同じ曲を何万回と弾いてるとそのスピリットをとらえにくくなるから。ベースもギターもドラムも全部同時にレコーディングする。そこから一番好きなテイクを選んで、必要があればパーカッションやヴォーカルを付け足したりもするわ。

サイケデリックなフレーバーがある一方で、あなた方の音楽には人間味のこもった確かな感触があります。どうやってそのリアルな音をキープしているのですか?

Laura Lee : それは曲作りのプロセスと同じくらいシンプルなことだと思うわ。単純に、それ以上リアルになりえないような環境での録音の成果よ。汚れた納屋で、牛に囲まれて、一斉録音で。サイケデリックな要素はループの仕方とか、ヴォーカルの多層な録音から来てるんだと思う。

写真:Christopher Werrett for Here & Now (www.wearehereandnow.net)

これまでのライブで最も良かった場所などはありますか?

Laura Lee : それはほんとに答えるのが不可能に近い質問よ。どのロケーションにもそこにしかないフィーリングがあるからね。最近だとアムステルダム郊外の Best Kept Secret Festival が最高で、お客さんは今まで見た中で一番というほどハッピーだったわ。あとはコペンハーゲンの The Vega や、サンフランシスコの Fillmore かな。あんな素晴らしい場所でライブできるなんて幸せよ。Lock-In Festival では森の中で演奏したのも楽しかったし、クロアチアの Love International では海辺の岩の上でやれたのも。どこであろうと大自然の中でライブできるのは最高よね。

ライブがうまくいっていると感じるのはどんな時ですか?

Laura Lee : みんなが最高に楽しんでる時かな。ステージからはお客さんの気分って本当に感じ取りやすいの。みんな楽しんでいて、踊ってて、一緒に歌ったり… 地球上でそれ以上に素敵なフィーリングはないわ。

バンドとして最も嬉しい褒め言葉は?

Laura Lee : 最近ある看護士さんが言ってくれたことなんだけど、穏やかな気分になってもらえるからということで末期の癌患者さん達に私たちの音楽を聴かせてるんだって。この上なく光栄なことだわ。

文:Angus Harrison
Daisy Denham(Here & Now: www.wearehereandnow.net

写真:Kris Humphreys(Here & Now:www.wearehereandnow.net

クルアンビン(Khruangbin)

クルアンビンは Laura Lee(ベース)、Mark Speer(ギター)、Donald “DJ” Johnson(ドラム)から成るテキサス出身の3人組。世界を股に掛ける彼らのサウンドは黄金期のソウルやR&Bにルーツを持ちつつも、サイケやダブをはじめ、世界中の音楽から幅広く影響を受け、独自のスタイルでライブを繰り広げる。
2015年作のデビューアルバム「The Universe Smiles Upon You」は60~70年代のタイ音楽のカセットテープの数々や、東南アジアのポップ・ロック・ファンクの影響を受けていたのに対し、2018年リリースの「Con Todo El Mundo」はそこから西へとインドを飛び越え、中東の特にイランの、まだあまり広くは聴かれていないファンクとソウル・ミュージックからの影響が見られる。ベースの Laura Lee はアルバムのタイトルをこう説明する。「おじいちゃんは私に “Como me quieres?”(わしのこと、どれくらい愛してる?)っていつも聞いてきたんだけど、答えは絶対この一つって決まってた。“Con todo el mundo”(世界中にある全ての愛を持って)って。」

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