What does “Analogue” Mean to You?

Edan

“地球そのもの、だと思うよ。それ以上に「温もり」かな。”

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Profile

Edan

MC、DJ、ミュージシャン、プロデューサーとしての類まれな才能を持ち、遊び心を持って「グランドマスター・マルチ・タスカー」を自称している。

ニューヨークを拠点に活動するイードン (Edan) は、ヒップホップ・カルチャーに対する一風変わったテイストで知られている。伝統的なラップ・ソングは、しばしば60年代ロックのサンプリングやテープエコー、外国語のコーラスによって歪められる(彼の歌詞に盛り込まれるオフビートなユーモアやシュールなイメージは言うまでもないだろう)。イードンのアルバム『Beauty And The Beat』は、ヒップホップとロックベースのサイケデリアとの華麗なマリアージュで世界的な賞賛を浴びた。音楽的には王道とはいえないこれらの手法を、イードンはスキルとオリジナリティを重視しながら、その影響を新しいものにセンス良く、そして慎重に融合させている。

バークリーで教育を受け、ブルックリンを拠点に活動するこのアーティストは、その印象的なスキルによる得意性だけではなく、一見無関係に見える興味、影響、親和性(例えば、古典的なオールドスクールのセンス、60年代のサイケ・ロック、ラキム以降のライムの構成、間奏に表れるカズーやテルミンなど)を、彼独自の感性で生かす能力において際立っている。2005年の名作『Beauty and the Beat』ですでに完成された感のあるこのスタイルは、カットアップリミックス(『Echo Party』)、コラボレーションアルバム(ホームボーイ・サンドマンとの『Humble Pi』)、DJセット、そして(残念ながら2019年に逝去した長年のパフォーマー・パートナー、パテン・ロックとの)伝説的なライヴ・ショーを通じて、常に開花し続け、インスピレーションを与え続けている。ここでは、この「グランドミキサー・マルチフィクサー」が、彼の美的逃避行の様々な側面において、アナログ・アプローチがどのように役割を果たしてきたかを語ってもらう。

01

Analugue is...

美学は非常に重要で、自分の世界観や、自分は誰の味方なのか、あるいは味方じゃないのかについて、多くを伝える非言語的な方法のようなもので、それはコミュニケーションの手段のようなものだと思う。

あなたにとって「アナログ」とは?

地球そのもの、だと思うよ。それ以上に「温もり」かな。土のようなもの。数学に基づいた模造品とは真逆のもの。シンメトリーではないけど、計り知れない自然の状態かもしれない。そこに美しさを感じるよ。

アナログなアプローチは、あなたの活動にどのように現れていると思いますか?

僕がのめり込んでいる音楽は、「温かく、そして不完全なもの」だと表現できる。その精神性は、僕がなにかを創作するときにも同じだと思う。一般的には不完全とみなされるものの中にある美しさを探し求めているんだ。でも、それは実際には不完全なものでははないかもしれないけどね。

あなたはこのことについて、どの程度自分で意識していますか?

美学というのは核心的でコアな感情にくらべて二の次だという人もいるだろうね。例えば『アメリカン・アイドル』で誰かが、まさにハートで歌っているような場合、それが最も重要なことで、その誠実さや感情的な力は、美学や、それを取り巻いている他のことより重要だと。ただね、僕はそうは思っていなくて。美学は非常に重要で、自分の世界観や、自分は誰の味方なのか、あるいは味方じゃないのかについて、多くを伝える非言語的な方法のようなもので、それはコミュニケーションの手段のようなものだと思う。

僕が自分の作品にある種の音の個性を保つ理由を考えてみると、それは世界観を伝えるためなんだ。だから、アナログなアプローチを意識するようにはしているけれど、アイデアを押し潰してしまうほどの強さではないな。僕は「何かやってみたい」し「直感に従いたい」し同時に「考えすぎないように」している。クリエイティブな空間にいる間は、完成品のことは気にしないで、ただ創作に没頭できるほど自由だと思いたいんだ。色々と気にするのは、完成させた後でいいんだ。

02

The Beginning

僕にとっては、アナログかデジタルかよりもアイデアの方が重要なんだ。自分が伝えたいことを誰かが受け取り、彼らが理解して、みんなでそのアイデアについて考え込むことができるなら、それが全て。

アイデアを実行するために、身近にあるテクノロジーは何でも利用するんですよね?

そうだね、確かにデジタル技術も使っているよ。でもアナログレコードも使ってる。うーん、最近プレスされているレコードの多くは、本物の「アナログ」ってわけではないよね。でも、それらは些細なことだ。アイデアを伝えることに比べればね。そう、僕にとっては、アナログかデジタルかよりもアイデアの方が重要なんだ。自分が伝えたいことを誰かが受け取り、彼らが理解して、みんなでそのアイデアについて考え込むことができるなら、それが全て。メディアなんて関係ない。アナログかデジタルかっていうのはさ「自然とは何か」ってことを考え込むようなもので、禅問答のようなものだよ。

僕たちは、母なる地球を讃えてこの地上に楽園を作ろうとするのだろうか?それとも、宇宙の星々に目を向け、火星や木星や、どこでも良いけど、どこかへ逃げ出すためにテクノロジーを使うのだろうか?僕はアナログとデジタルを対立させる必要は無いと思ってるけど、その議論に乗っかるなら「アナログをどう維持するのか」という、そもそもの問題が重要だと思ってる。つまり、自分が知っている、そして持っている眼の前の美しいものを維持するのか、それとも、あるものを維持するのが多少難しくなった時点で、こことは違う他の場所に目を向けるのか、というようなこと。今、世界で起こっているすべてのことも、同じように、僕たちが持っている「良いもの」に対する不始末の反映とも言えるだろう。こういった会話していると、僕の頭の中にはそんなことが浮かんでくるんだ。

長年あなたのDJを見てきましたが、あなたはレコードをプレイしていますね。

楽しいからね。コンピューターは使いたくないんだ。あれはクソみたいに退屈だからね。

なぜレコードの方が楽しいのか、説明できますか?

わからないけど……、自分の情熱を讃えることができるからかな。もちろん情熱は音楽そのものにあるんだけど、それは手触りのいい素材や、そういったモノを手に入れることにまで波及するんだよ。モノが持っているストーリーに浸るんだ。そりゃあ、mp3も別にいいと思うよ。mp3で多くの人を踊らせようとする人たちがいるし、その人たちのmp3は、僕がレコードでやるよりもいい仕事をしていると思う。それはそれでいいんだ。僕はただ方向性として、もう少し知性に訴えたい。みんなが楽しめることが一番だ。

僕自身は、どういう理由かわからないけど「たくさんの物を手に入れる」という疑わしい習慣に陥ってしまったんだ。そうなった以上は(笑)、エゴかもしれないけど、自分が苦労して稼いだお金で買ったものを尊重したいし、有効に使うしかない。デジタル化してどこにでもあるデータに変えたり、「数学に基づいた模造品」を作ったりして、実際のレコードは棚に保管しておくってことはしたくないんだ。僕は贅沢にも、自動車を持っている。だからギグにレコードを運ぶのも簡単だし、ライブハウスの外に車を停めて、レコード・ボックスを持って2、3往復すればいいだけだ。でも、そんな贅沢ができない人もいるわけで、だから結局これはどうでもいいことなんだ。ただの個人の選択だよ。僕は、レコードが偉大な高貴さを持っているなんて決して言わないし。ただ、僕はレコードのほうがプロセス全体をより楽しめるし、生活がシンプルになる、というだけなんだ。レコードを買って、それを使うってだけのことだよ。僕はレコードを買うのが好きなんだ。

そして、ここまで来ると、レコードをプレイすることがあなたのスタイルだとみんな感じていると思いますよ。

そうだね。それに、通りすがりの人たちや、僕が古いレコードを使っていることに気づいていない人たちにとっても、もしかしたら無意識のうちに、過去につながる糸口になっているんじゃないかと思うんだ。たとえば、今日より前に存在していた世界の豊かさに触れるとかね。音楽、芸術には神秘性とか、興味をそそられるものがあるべきだし、古いレコードをみんなの前で使って、その中にレコードを知らないような若い人たちがいたら、それはとても素敵なことだろう。だからそうしているんだ。

03

About Music Creation

物事はもう少しデリケートであるべきだと思う。人生には尊さがあるから。大量生産されたもの、人の手が加わっていないようなもの、そうしたものとは違うものを作って、それを示したいんだ。

あなたは、モノが持つストーリーについて言及しました。そのことを意識し、感謝するようになったのはいつから?

それを完全に理解するようになったのは、たぶん、けっこう歳を重ねてからだよ。時間の経過が実際に何を意味するのかを、よりよく理解するようになったんだ(笑)。例えば、母が昔持っていたビートルズの『Revolver』には、母の名前が手書きで書いてある。物語とか、深みとか、人々……それは人間についてのすべてであり、この人生を最高のものにするために地球上で何をするかということなんだ。これらのレコードには「誰かが生きたその人生」が刻まれている。特に、そういったレコードに個人的なメモがあればなおさらだ。どうやって何かを手に入れたとか、友人が何かを教えてくれたということも思い出させてくれる。レコードは友人を思い出させるかもしれないし、かつての恋人を思い出させるかもしれないし、家族の一員を思い出させるかもしれないし、かつて町の変人たちが集まる聖域だったレコードショップを思い出させるかもしれない。そういうものが全部くっついているんだ。たとえレコードのコンディションがめちゃくちゃだったとしても、ああ、本当にこのレコードが好きだったんだ、このジミ・ヘンドリックスのレコードをめちゃくちゃになるまで聴いていたんだ、とかね。それもまたクールだ。全てがそう。「経年劣化が醸し出す風合い」ってやつさ。わかるかな?(笑)

私がいつもあなたを尊敬し、そして楽しんでいることのひとつは、あなたの感性がさまざまな面で一貫していることです。あなたが音楽を作り、音楽を演奏し、そして、これらの経験を提示する方法は、視覚的にも同じ美学を共有しています。たとえ同じ方法で作られていないとしても、アナログなもののように見え、そう感じられるのです。

僕がDJギグやオンラインプロモーションのチラシを作るときは、すべてデジタルメディアを使うんだけど、最初から設定されているフォントや、コンピューターで入力したときにすべてが一直線になるようなものを使うのではなく、レターステッカーのようなものを用意して、それをスキャンして、文字をひとつひとつ切り貼りするんだ。わざと傾けることもある。チラシの文字も構図の一部として、ある種の感情的な意味合いを持たせたいんだ。ここが傾いているとか、文章が斜めに走っているとか、そういう部分で動きを出すんだ。そういうものはすべて繊細なものを表現するためなんだ。だから、すべてがつながっているよ。

例えば、「アナログ」が「ヒューマンエラーそのもの」を指しているような感じかな。あるいは、人間の表現と、完璧で技術的なものとの比較のようなものかもしれない。でも、さっき言ったように、すべてはアナログとデジタルを経由しているんだ。デジタルの音楽は、オープンリールテープなんかを手に入れる必要がないから即時性もある。それぞれが異なるメディアであり、自分がやりたいことに合わせて、それらのメディアをどのように使いこなすのがベストかを考えなければだね。以前は、ブレイクをマシンにサンプリングするときにわざと歪ませたりしていたんだ。そのときは「君はどんなマシンを使っているんだ?」とよく聞かれたものだよ。まるで僕がクレイジーなマシンを使うべきだと思っているみたいに。そうじゃなくて、使い方次第なんだ。ある種の個性を与えるために、何をすれば良いのか。それを人はアナログ的なものだと呼ぶんだ。技術的にはアナログとは限らないけど、そこにはその精神はあるだろうね。

魂がこもっていないような安っぽさを感じるものは、なるべく避けたいね。デジタルのディストーションがクソみたいに聴こえるようなものは、聴きたくない。さっきフォントやコンピューターの話をしたのと同じだよ。90年代後半から2000年代前半のヒップホップのカバーアートデザインは、いつもコンピューターで描かれているように見えてクソつまらなかった。僕はそういった類のエネルギーからは遠ざかろうとしているんだ。物事はもう少しデリケートであるべきだと思う。人生には尊さがあるから。大量生産されたもの、人の手が加わっていないようなもの、そうしたものとは違うものを作って、それを示したいんだ。僕は、そういうことがやりたいんだと思う。これは、僕たち全員が共有している、人間的な経験のことなんだ。意図された微細な調整や個性的な要素、そして「不完全さ」のようなものには、人間性を讃え、強化する何かがある。僕が、劣化した楽器を使ってテープに録音した音楽を、再びテープを通して少し歪んだ音にするというのは、ある意味本物を追求しているようなものだよ。奇妙なもので、何かが少し劣化して完璧でなくなると、少し「生っぽさ」を感じられるようになるんだ。そう、それはより生き生きとした体験を作り出すという実験の一環なんだよ。表現方法や文字、音に少し変化をつけることで、物事が豊かになると思う。アナログは、さらに温もりを与えてくれるんだ。

では、テルミンはこれらとどのように関わっているのでしょうか?

テルミンか。アナログの音波、サインウェーブってところかな。なんていうか……僕は宇宙の音とかが好きなんだ。わかるかな?(笑)

文 : Jeff Mao
写真 : Becky McNeel, Ricky Powell, Edan

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What does “Analogue” Mean to You?

Donna Leake

“温かみがあって、音質が良くて、手入れが行き届いていて、誠実で、深みを感じさせるもの。”

ロンドンのブリリアント・コーナー ズ(brilliant corners)で、レジデントDJを務める。現在はブリリアント・コーナーズや、世界各地の会場で最上の音楽体験を追求している。

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